** 電力合成 By JA4MSM **

2つの電力を合成する電力合成器は3dBカップラーとも呼ばれる。
50KWの送信機を2台使い、3dBカップラーで合成し100KWで送信している放送局もあるようだ。
1台が故障しても、もう一台で送信できるため、電波が止まる事はない。流石放送局!
という事で、簡易3dBカップラーを試作、実験してみた。
私は500Wクラスの真空管リニアを複数台所有し、バンド毎に使い分けていた。
古い真空管リニアでもバンド毎に配置すれば、QSYの時に面倒な調整が要らない。
しかしリニアが沢山あっても電波を出すのは1台だけ。他のリニアは遊んでいるのでもったいない?!
2台動作させ1KWの能力で500Wを出せば電波の質も良くなるはず!
お金を出せば幾らでも良いリニアアンプが手に入る時代、古い手持ちのリニアアンプを有効に利用出来ないか検討してみた。
1KWの電力を出す事が目的ではなく、電力合成への好奇心と技術的な興味、もったいない精神で行うもの。
QROが目的の方は、電力合成の様な面倒なことをやらず、大きなアンプの購入・作成を勧めます!!

電力合成のメリット(あえて言うなら)
アンプは小型(500Wクラス)の物で良い。500Wクラスのリニアの重量は20Kg程度。運ぶのもメンテナンスも楽!
1台のアンプが故障しても、もう1台のアンプで運用可能
500Wクラスの真空管リニアなら、オークションで比較的安く手に入る

デメリット
真空管アンプを電力合成する場合、2台分のPLATEとLOADINGの調整が必要となりQSYが非常に面倒!
(半導体リニア、オートチューンのリニアが普及している今、致命傷!)


電力合成はウイルキンソン合成が有名だが、HFでは規模が大きくなり、一つの周波数に限定されるので不採用。
3.5MHz以上のHFで(広帯域で)使用したかったので、トロイダルコアを用いた方式とした。

FL2100Bを2台使用して電力合成(現在は、3.5MHzにてFL2500×2で運用

3.5MHzで900W 7MHzで1KWを確認した。160Wで押すと3.5MHzでも1KWを超える。
使用した電力計はCOMETのCMX-200(3KWレンジ)
FL2100B×2の接続(写真をクリックで拡大表示)

今回試した方式は原理的に、異なる出力のアンプでも電力合成が可能なので、FL2000BとFL2500で電力合成を試みた。

各アンプの送信電力は、分配器のみ使用し、1台のアンプはアンテナ、もう1台はダミーに接続し通過型電力計でそれぞれを測定した。
FL2500は電源のレギュレーションを改善するため、外付け電源を作成し内蔵電源と並列で供給する事で700Wの出力を得た。

FL2000B+FL2500(7MHzで連続キャリアを送信した状態の写真)
Youtubeで動画を見ることができます。https://youtu.be/j1LjqF7Q9Jo

2022年鳥取県支部大会で紹介した動画(NEW!!)
(現在、この構成にて7MHzで運用中。写真をクリックで拡大表示
FL2000BはOPER.電球切れだが、使用上問題ないのでそのまま使用。
パワー計は写真左上のコメット製で1.2KW程度を示している。各アンプの電流は写真参照(メータは電流計)。
入力電力(エキサイターの出力)を増やせば合成出力も増えそうだが6KD6が心配!
歪が少ないリニアな領域は1.2KW程度までか?

FL2500×2(3.5MHzで連続キャリアを送信した状態)
(現在、この構成にて3.5MHzで運用中。写真をクリックで拡大表示
左手でエキサイタの送信操作をしながら右手のスマホで撮影したので斜めからの写真になりました。
短時間の送信で貴重な6KD6ボケ防止の為、悪しからず。
電力計は中国製なので精度は?
電力計は3KWレンジ、FL2500の電流計はフルスケール2Aで1A前後を指示。これ以上は歪みが増える?

これまで実際に電力合成の運用を行ったリニアアンプの組み合わせ

作成した電力合成器(写真をクリックで拡大表示)

合成器に使用したコアはFT240-43×2。コアは一個でも1KWで大丈夫だったが念のため2個スタックした。
線材はテフロン線(内径1.25mm)を使用した。
電力合成・分配器は下記URLにも解説あり。興味があれば参考にされたい。
http://www5a.biglobe.ne.jp/~jh2clv/pdf/divi&combi.pdf

http://www5a.biglobe.ne.jp/~jh2clv/hf_powerdivider&conbiner.htm
分配器(写真をクリックで拡大表示)
分配器は合成器と同じ。INとOUTを逆に使うだけ。(扱う電力が小さいので小型のコアが使用可能)
双方向で使えるため、受信時は合成器が分配器、分配器が合成器として動作し、そのまま使用できる。

一つのコアで3ポート全て50Ωにしようと試行錯誤(結局断念)

今回作成した分配器と合成器の部品コスト合計は、ケースも含め6,000円程度。500W→1KWが6,000円は興味深い!
研究・試作・試行錯誤費を含めても10,000円程度。
コアは温まらない(手で触れても温度上昇が分からない。ひんやりしている)ので分配器、合成器でのロスは少ない。
作成した分配器と合成器は簡単にするために、1:1とした。
この為、負荷(ダミー)が50Ωの場合、各リニアアンプから見た負荷インピーダンスは100Ωになる。(リニアの出力電力が等しい場合)
100Ω程度であればリニアのπマッチで調整可能。
また、使用するリニアアンプの入力インピーダンスが50Ωの場合、分配器の入力インピーダンスは25Ωになる。
50Ω→25Ωのインピーダンス変換トランスを作って入れても良いが、今回はFTDX5000内蔵のオートアンテナチューナーで整合を取った。
古いリニアの入力インピーダンスは50Ωからずれている物が多い。またGGアンプの入力インピーダンスはドライブ電力でも変化するので
分配器の入力インピーダンスが25Ωジャストになることは稀。
エキサイター内蔵のアンテナチューナー等で整合を取るのが正解と思われる。

以上の様に電力合成は比較的簡単・安価に実現出来るが、電力合成を推奨するつもりはない。QROは単独アンプで実現が一番!
リニアアンプの電力合成に技術的興味がある方には面白いテーマ! 動作原理を理解し自己責任で!
電力合成免許にあたり総合通信局から頂いた文書
総合通信局は電力合成時、高調波がアマチュアバンド外に出て他の無線局へ干渉を与える事を最も懸念している。
特に21MHz、28MHz運用時には2倍高調波がアマチュアバンド外になるので、
必要によりBPF(アンテナチューナー)やLPF(35MHz程度のカットオフ)を入れて運用する事を提案した。
調整方法の概要はこちら                          de JA4MSM

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シャックのレイアウト(写真をクリックで拡大表示)
古い真空管リニアの電力合成でQSYは実用的では無い。周波数を固定して使うのが現実的!

hamlife.jpで取り上げて頂きました。https://www.hamlife.jp/2018/09/07/ja4msm-power-combining-1kw/

補足:真空管リニアアンプを使用し、安価に電力合成ができた。
   今回の方式で、分配器と合成器にポートを追加する事で、3台の合成までは、比較的簡単に実現できそうである。
   
JA5FPの間(あいだ)様がアカデミックに考察されました!(NEW)
   
JA4KQP局、野田さんが自作の半導体リニア2台の電力合成の実験をされました!(その写真など)
   良い結果が得られていると言うことです。